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翻訳:セルフ・コンパッションと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

セルフ・コンパッションと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

              クリス・ガーマー&クリスティン・ネフ               Center for Mindful Self-Compassion 共同創設者


世界80カ国以上でコロナウイルスが拡大し、誰でも何らかの影響を受けています。旅行・移動は取りやめになり、日用品の在庫は払底し、学校や職場は一時休校・休止になり、さらにはネット通販で手指消毒液が一本250ドル(訳注:日本円でおよそ26,000円)もの価格になっています。私たちに関わるところでは、クリスが香港で指導予定だったMSCプログラムは、実施会場が検疫所となったために中止されました。クリスティンは、息子ローワン(訳注:幼い頃に自閉症と診断)が学校に行くのを不安がり、これを鎮めなければならなくなりました。疫学の専門家はこの状況の背景や原因を理解しようとしていますが、多くの疑問が残ります。どうやったらウイルスの拡大を遅らせることができるのか?このグローバルな流行の影響はどうなるのか?


ここでのキーワードは「グローバル」です。地球温暖化、経済的不平等、そして今回のウイルス拡大など、私たちは世界で多くの問題に直面しています。ウイルスの拡大にともない、物資供給の流れが破綻することで産業活動と国際的な移動が停滞しているのです。つまり、新型コロナウイルスからわかることは、私たちがいかに相互に依存しているかということです。


グローバリゼーションとは、ファクト(事実a fact)です。これに対して取りうる唯一の選択肢とは、私たちがこの問題をともに解決するかどうかです。私たちは、この選択肢とは、恐れつつ反応するか、優しさで応じるかのどちらかだと考えています。 新型コロナウイルス感染症の問題をきっかけに、国境封鎖を強化する政策を打ち出す民族主義的な人もいます。しかし国境を越えてこの問題を解決しようとしている人もいます。例えば、ハーヴァード大と中国の科学者は新たに協働して、新型コロナウイルス感染症のワクチンを開発しようとしています。


では、私たちひとりひとりは何ができるのでしょうか?ここで出てくるのがセルフ・コンパッションです。セルフ・コンパッションは免疫力を高め、不安を低減し、他者に心を開き続けるための簡単な方法です。当然ですが、恐怖感への対策とはウイルスの拡がりに対して健全に反応することです。今回のウイルス拡大に賢く反応して欲しいのです。こうすることが、自分と他者のためになる予防的な対策となるのです。


新型コロナウイルス感染症の場合、ウイルスに感染しないための対策は、他者に配慮することです。仕事や移動に制限がかかったり、収入が減ったりするなど、ウイルスが無用な不安を引き起こしたり、あるいはあなたの知っている人がウイルスに既に感染していたら、セルフ・コンパッションが役に立ちます。新型コロナウイルス感染症の流行にセルフ・コンパッションで応じるには、下記のようにやってみてはいかがでしょう。「セルフ・コンパッションを使ったひと休み」Self-Compassion Breakのやり方を元にしています。


マインドフルネス: ウイルスのことをどう感じているかに意識を向けてみます。不安を感じていませんか?がっかりしていませんか?よくわからず混乱していませんか?身体で感じることはありますか?もしあれば、それは身体のどこにありますか?ずっとウイルスのことで頭がいっぱいになっていませんか?もしそうなら、どんなことを考えますか?自分のために、その考えや気持ちに、優しく理解をもちながら認めることができますか?例えばこんなふうに。「うん、これは大変だな」「これは難しいことだね」「これは本当にストレスたまるよ」 この状況はみんな経験しており、自分はその一部なのだとわかれば、自分の気持ちから少し距離をとることができますか?


共通の人間性: ウイルスと闘っている人たちのニュースを耳にすれば、これは自分ひとりのことではなく、世界中のみんなのことで自分はその一部なのだと少しは感じることができませんか?この状況で自分のことを想像し、そしてこう言ってみます。「私と同じだね。」 あるいは、ストレスを感じるとき、こんなふうに思いだしてみます。「他の人も私と同じようにしんどいんだ。私はひとりじゃないね」「病気は人生の一部なんだよ」「人間だったら、まさに今はこんなふうに感じるものだね」


自分への優しさ: 手のひらを胸か、どこか身体で気持ちよく感じる場所に置いてみます。手を触れることで不安を少し鎮めることができます。まさに今、ウイルスのことについて、自分を慰めたり安心できたりするような、自分に必要な言葉は何でしょうか?その言葉を自分で実感することができますか?温かくコンパッション(思いやり)のある声で、自分にその言葉を語りかけることができますか?自分を守るために必要な行動は何でしょうか?自分に何かを与えるために必要な行動は何でしょうか?こうしたことを温かみのある態度でやると少し元気になれますか?


この実践をおこなって、リラックスし、コンパッションのある気持ちになれるかどうか、あるいは自分がポジティブな行動をとろうと前向きに思えるかどうかに注意してください。紅茶を味わって飲む、お風呂に入るなど、セルフケアの行動を毎日おこないながら、自分がコンパッションのある気持ちをもてるような方法をなにか探してみてください。

どんな危機もそうであるように、新型コロナウイルスもまた一つの意味を持った機会なのです。

例えばウイルスが人間生活に課した制約から、私たちは意味のある教訓を知ることができます。つまり、日々慣れ親しんだことから抜け出すという機会なのです。家族と一緒の時間をもっと過ごしていますか?長い間じっと眺めているだけだった本を読むいい機会ではありませんか?


もっと具体的な話をしましょう。こんな教訓もあるかもしれません。2016年のことです。クリスはシドニー国際空港に戻ろうと、タクシーに乗りました。クリスはインド出身の年配の男性ドライバーに、当時のアメリカの政治状況についてどう考えているのか聞きました。そのときにドライバーの語った言葉は、今でも忘れられません。


「人間の歴史とは、拡大と縮小を繰り返しているんです。でもね、拡大の歴史は縮小のそれより長いんですよ。」 クリスは聞きました。「なぜ拡大の歴史が長いんですか?」 ドライバーの答えはこうでした。「そりゃ、人間は拡大するのが好きだからですよ。」

グローバリゼーションによって、年々、新型コロナウイルスのような脅威が高まってるだけのように思われます。この状況の中で、私たちの導くままに、私たちの創りたい世界とはどういうものなのでしょうか?人間とは、新たな困難のひとつひとつに偶然にも直面すれば、拡張したり縮小したりするのでしょうか?コンパッションとともに生きることに、グローバルに関わっていけるのであれば、さまざまな力を発揮できるでしょう。セルフ・コンパッションはそれを始めるための優れた方法であるように思えます。やってみませんか?                                 (訳;富田 拓郎)


注:日本語翻訳と掲載公開について米国Center for Mindful Self-Compassionの承諾を得ております。全文のシェア拡散はご自由にどうぞ。部分使用、改ざん、コピペ等はお控えください。Dr. Steven Hickman(CMSC, Executive Director)ほか、関係各位に感謝いたします。


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